法政大、図書館vs法学部 貸し出し履歴の保存巡り3年

図書館が利用者の「貸し出し履歴」を保存して利用者本人に提供するサービスが広がりつつあります。ただ、履歴保存に懸念を示す人は少なくなく、法政大学では大学図書館への導入を巡って、法学部の教授らが反対し約3年にわたる対立が起きました。
現在は、本を返却すると、利用者がその本を借りたという貸し出し記録は消去されますが、新サービスを導入することで、過去に借りた本の書名や著者名などの書誌情報のほか、貸出日、返却日などの記録が保存・蓄積され、貸し出し記録として利用者が閲覧できるようになります。
履歴を閲覧できるのは利用者本人のみで、図書館スタッフは、業務上必要な最低限の範囲でしかアクセスしない決まりで、利用者はいつでもサービスを中止でき、中止すれば履歴も削除されるようになっています。図書館側は「利便性の拡大」のため2018年8月のシステム更新に合わせた導入を目指していましたが、情報が外部や警察に漏れれば学生らの人権が脅かされかねないとする法学部の教授らの反対や学生による反対の署名運動も起き、先送りになっていました。
しかし、昨年12月頃、利用者が自ら操作しないと、貸し出し履歴が自動的に保存される仕様を、新サービスの利用を希望する人の履歴のみが保存される仕様に変更し、貸し出し記録を利用することのリスクを利用者に説明するといった条件付で法学部も6月に導入を認めました。

引用:https://www.asahi.com/articles/ASP5X7KGQP5WUTIL05Y.html

─ YODOQの見方───────────────────────────

全国約7千館を対象とする図書館蔵書検索サイトを運営するIT企業カーリルの調査では、過去3年以内にシステム更新をした340自治体のうち3分の1以上の133自治体が貸し出し履歴の保存機能を導入しているそうです。「昔借りた本の書名を忘れたので調べたい」「一覧で確認したい」という利用者からの声もあり、一見便利なシステムで導入する図書館が増えている一方、導入していない図書館が多いのも事実です。
従来、図書館では本が返却されると貸し出し記録は消去されるシステムになっていました。何故なら、図書館の憲法とも言われる、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」の第3に次のように明記されているからです。

第3「図書館は利用者の秘密を守る」
1.読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。

この大前提が破られることで問題になった例もいくつかあります。
埼玉県三郷市は平成21年に学校図書館のデータベース化を行い、平成22年には三郷市にある全ての学校でコンピュータ管理システムを整備したという背景があり、2018年、あるサイトで肯定的な記事として三郷市立彦郷(みさと市立ひこさと)小学校の鈴木勉校長の話として、「データベース化を行うことによって、児童ごとの読書傾向を学校側が把握できるようになり、今どんな本を読んでいるのか、あるいは1ヶ月で何冊の本を読んでいるかなどを的確に把握でき、それらのデータ資料を担任の先生に配布することで、個別指導を行ったり、時にはオススメの本を推薦することもできる。」とのコメントが掲載されると瞬く間に批判を集めたそうです。
また、1995年に公開されたスタジオジブリの映画「耳をすませば」では、図書館の貸出カードがストーリー展開上、重要な要素として描かれていましたが、図書館業界では大きな問題となり、これを契機に全国的に貸出カードの廃止が進んだそうです。
貸し出し履歴は、読書傾向から個人の趣味や思想が容易に類推することができる個人情報です。
そのため、利用者を特定した貸し出し履歴は取扱いに十分な配慮が必要なもので、その貸し出し履歴を長期で保存することは、情報漏えいのリスクも負います。
図書館以外には、楽天会員ならアプリをダウンロードすることで利用できる読書管理アプリ「Readee」というサービスがあります。これなら、図書館が貸し出し履歴を保存する必要はなく、利用規約に納得した個人が自己責任で利用できます。ただ、ネットを利用したサービスなので、図書館という自治体に属する組織に貸し出し履歴を保存されることとは別のリスクはあります。
図書館が提供しているサービスとして「読書通帳」というシステムがあります。こちらは、カウンターで貸し出し処理を行うと書籍情報が読書通帳機という専用端末に転送され、そこに自分の「読書通帳」を入れると書名や貸出日などが印字されるというものです。これなら、システム上に貸し出し履歴を保存する必要がないので、返却と同時にデータを消去しても大丈夫です。基本的に利用対象は小・中・高校生で無料配布しているようですが、大人でも有料で利用できる図書館もあるそうです。コストはかかりますが、利益者負担で利用できるのであれば、プライバシーを図書館に保存・利用される心配なく、自分の読書履歴を目に見える形で保管できます。また、図書館側にしても、利用者の貸し出し履歴を把握したいという要望に応えつつ、趣味嗜好・思想にかかわる個人情報を長期保管するリスク、情報漏えいへのリスクを軽減できるというメリットがあります。
ネットでは書籍の購入履歴が蓄積され便利になっていることもあり、データを活用しようとする機運も高まってきていますが、便利な面だけでなくリスクについてもきちんと理解した上で利用する必要があるのではないでしょうか。

参考:http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx
参考:https://mainichi.doda.jp/article/2018/12/22/842.html