ガザの人道状況は壊滅的

パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエル軍の空爆が続いている。
国境なき医師団ガザ地区ミッションのヘレン・オッテンス=パターソン氏はBBCの取材に対し、同地区の人道状況は「壊滅的だ」と説明した。
ガザ地区では空爆により、道路や電力といったインフラが打撃を受けており、医療システムの存続が危ぶまれている。
また、多くの住民が家を追われ、避難生活を強いられているという。

引用:Wedge BBC News ガザ地区の状況は「壊滅的」と、現地の国境なき医師団スタッフ

─ YODOQの見方───────────────────────────

平和な日本で暮らしていると想像し難いですが、パレスチナは数十年来、政情不安や内戦状態が継続しています。平均的な日本人の感覚では、「中東はいろいろな宗教・民族が混然として不安定」程度の認識かと思われます。
宗教そのものが争いの根源的な原因なのか、というと、異教徒がうまく共存する国は世界中にあり、こんな単純な答えでは説明できないようです。

政治(憲法、法律)と宗教という観点から中東情勢を見つめてみました。中東各国の基本法規にある国家の定義と宗教について分類しています。

【宗教国家】
中東国家のうち、イスラエル、サウジアラビア、イランの3国は「宗教国家」と呼ばれます。
○イスラエル
イスラエル帰還法
 国外のユダヤ教徒がイスラエルにアリーヤー(移民)することを認めるもの。
 ユダヤ人とは、ユダヤ人の母から産まれた者、もしくはユダヤ教に改宗し他の宗教を一切信じない者

国民国家法14条 2018年7月成立
 イスラエル国会は「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」ことを定めた「国民国家法」を可決した。
全人口の2割近くを占めるアラブ系住民は「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)を合法化するもの」と猛反発している。
「ユダヤ人の歴史的な国土」という明記を入れている。

 1948年の独立宣言では、「宗教、人種、性別に関わらずすべての国民が平等な社会的、政治的権利」をもつとされていたものを反故にした、として国際的な批判を浴びた。

参考:ニューズウィークジャパン 自らを「ユダヤ人国家」と定めたイスラエルは、建国の理念も捨て去った

○サウジアラビア
サウジアラビア統治基本法 第1章第1条
 サウジアラビア王国は、アラブ・イスラムの主権国家であり、その宗教はイスラムであり、その憲法はコーランおよびスンナとする。
 また、言語はアラビア語を使用し、首都はリヤドに置くものとする。

 「スンナ」は預言者ムハンマドの言行・慣行録で、イスラム教スンナ派の教義実践を行う盟主として国家を定義している。

○イラン
イラン・イスラーム共和国憲法 第1章第1条
 政体をイスラム共和制とする。

 憲法内ではイスラム教シーア派を国教と定義している。
 近代西洋国家に倣って三権分立などの仕組みを取り入れるとするが、三権それぞれについて「イスラム法に則っているか」を法学者が監査する仕組みをとっている。

3つの宗教国家は宗教の教えそのものが国制の成り立ちに組み込まれており、(政教分離とは真逆の)政教一元の考え方を持つ国です。

【名目的なイスラム国家】(中東の大部分の国)
・ムハンマド由来の血縁により、君主が王権の正当性を持つと主張する
・憲法にイスラム教を国教とすると記載されている
・元首がイスラム教徒であることを規定する
これらの仕組みでは宗教(イスラム)は政治のための理由付けとして活用されているという実態があり、宗教より前にまず政治ありきという意味では世俗国家に分類されます。

【非宗教国家】
中東でトルコ、レバノンの2国だけは憲法に特定の宗教を記載していません。
レバノンはキリスト教徒が多いようですが、多民族・他宗教で他国の影響・侵略を受けやすく、政情不安定な国です。
トルコは西洋の影響を強く受け、トルコ人の国、国民国家として独立しています。

翻って、日本ではどうでしょうか?
まず、憲法前文では「国民主権」がうたわれています。
 …ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する…
第十条  日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
 →「国籍法」により、父親か母親が日本人ならば日本人であるとする。
  この考え方は「血統主義」と呼ばれます。
  反対に出生地により国籍が定義されるアメリカなどは「出生地主義」と呼ばれます。
  血統主義は大航海時代以前にルーツを持つ国家が多いそうです。出生地主義は比較的新しく形成された移民国家に多いそうです。
第二十条 信仰の自由
 日本では政教分離されており、信仰は個人の自由となっています。

普段から憲法の内容を意識して生活するようなことはなかなか無いと思います。
このような折に振り返ってみると、我々日本人が国(≒法律)に守られた、寛容な制度のうえに平和に暮らしていることがわかります。
遠くパレスチナで一般市民が犠牲になっている状況は大変痛ましい事です。
現在、我々の身近でこのような悲劇が発生しないのは何故か、将来にわたって発生させないために何を大切にすべきか、じっくり考えてみてはどうでしょうか?

(参考文献)
末近浩太 中東政治入門