移行から考える

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コラム 技術と人のあいだ
  

日々の業務で、お客様への提案や若手エンジニアへの説明をする機会が多くあります。 限られた時間の中では伝えきれないことや、「これも知っておいてほしいな」「前にも同じ話をしたな」と感じることを、ここに少しずつ書き留めていきます。

移行から考える

システム開発プロジェクトにおいて、忘れがちだけれど非常に重要なことがあります。
それが「移行」です。

既に運用中のシステムから、新しく開発したシステムへ置き換える。
こうしたプロジェクトは決して珍しくありません。

私が一メンバーとして関わったあるプロジェクトでも、設計・開発フェーズがとにかく難航しました。
そして開発フェーズの終盤になって、ようやく「そろそろ移行のことを考えないといけないですね」という話が持ち上がりました。

移行は“別の開発”である

移行元と移行先のシステムでは、キー項目やデータ同士の関係(リレーション)が異なることが多くあります。
それが数十万件単位で積み上がっている場合、
単純なコピーでは済まず、「移行専用のプログラム」を作って加工する必要があります。

ここで注意したいのが、移行プログラムの特殊性です。

通常の業務プログラムは、
開発後にテストを重ね、実運用の中で想定外を経験しながら品質が磨かれていきます。
一方で移行プログラムは、次のような性質を持っています。

  • 原則として一度しか使われないため、品質保証が難しい
  • 切替作業中の限られた時間内で、確実に完走することが求められる

そのため、繰り返しリハーサルを行い検証を重ねる必要があります。しかし、一度しか使われないという前提は変わらないため、移行はどうしても「想定外のコスト」になりやすい領域です。

「どう飛ぶか」ではなく「どう着地するか」

たとえ話をすると、少し分かりやすくなります。

飛行機が発明された当初は、「どれだけ高く、どれだけ長く飛べるか」を競う時代でした。
しかし現代の飛行機は違います。最も重要なのは、滑走路に無事着陸できることです。その前提のもとで、機体が設計され、運航計画が立てられています。

システム開発も同じです。
「どう作るか」だけでなく、「どう切り替え、どう着地するか」について、開発ベンダーとシステムオーナーがあらかじめ目線を合わせておかないと、想定していたコストや納期に間に合わない、という事態が起こり得ます。

移行対象はすべて同じではない

参考までに、データは種類ごとに整理して考える必要があります。

  • マスタデータ
  • 顧客情報、商品情報など

  • トランザクションデータ
  • 見積伝票や請求データなど、履歴性の強い情報

マスタデータは新システムへ移行するが、トランザクションデータはCSVファイル保存で十分、といった判断が現実的なケースも少なくありません。

用語の整理

最後に、よく混同されがちな用語を整理しておきます。

  • 移行
  • 多くの場合、データ移行を指します。

  • 切替
    • ユーザー目線
    • 旧システムの利用を停止し、新システムで業務を開始すること

    • ベンダー目線
    • システム切替そのものに加え、DNSやロードバランサの切替作業なども含みます

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